東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10337号 判決 1966年11月22日
原告 ケンユープレハブ株式会社
右代表者代表取締役 田辺元勝
右訴訟代理人弁護士 新長巌
同 浜野英夫
被告 大館家具木工協同組合
右代表者代表理事 緑川大二郎
右訴訟代理人弁護士 大里一郎
主文
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一 原告が別紙第一目録に示す組立式押入たんすセットを製造販売しており、被告が別紙第二目録に示す組立式押入たんすセットを製造販売していることは、当事者間に争いがない。
二 ≪証拠省略≫によると、つぎの事実が認められる。
和風家屋の押入を利用してたんすを取り付けようという着想は、おそくとも昭和の初め頃にはすでにあり、その後大工職、建具職等が個々の注文に応じて整理たんす、洋服だんすを製作して押入に取り付けた事例は幾つもあった。原告の代表者である田辺元勝は個人営業の時代に、和風家屋の押入の大きさがほぼ一定の規格を備えていることに着目し、押入に洋服だんすを取り付ける部品をあらかじめ取りそろえてセットにして商品化し、大工職等の需要に応じようと考え、原告製品を製作した。原告製品のセットは、前枠、棚受け機、ハンガー坐板、パイプ引出前板、つま板、向板等通常の洋服だんすに備わっている部品と押入と前枠との間に生ずるすき間を埋めるための面棒とから成っていて、それ以外に特殊の部品は加えられていない。原告製品がこのような部品から構成されているのは、需要者が容易に組み立てられるように配慮し、同時に輸送用の包装の便宜を考えて部品化を図った結果であり、これらの部品は普通の方法により組み立てられるものである。
以上に認定した事実からすれば、原告製品の組立式押入たんすセットが別紙第一目標に示すような形態をとっているのは、商品本来の技術的な機能から必然的に由来した結果にほかならないということができる。
三 原告は不正競争防止法第一条第一号にいう「其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」のなかには商品の形態自体も商品の出所表示の機能を有する限り含まれると主張する。
不正競争防止法第一条第一号が「他人ノ氏名、商号、商標、商品ノ容器包装其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」と同一または類似のものを使用するなどして他人の商品と混同を生ぜしめる行為を防止しようとする趣旨からみれば「其ノ他他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」とは、氏名、商号、商標、商品の容器、包装等例示されたものと同様に商品の出所表示の機能を果すものを指すといってよいであろう。この見地から原告の主張する商品の形態自体がこれに含まれるかどうか考えてみると、商品の形態自体は本来商品の出所を表示するものではないけれども、ある形態が永年継続して排他的にある商品に使用され、または短期間でも強力に宣伝され、あるいはその形態が極めて特殊独自なものであるためその形態自体が出所表示の機能を備えるに至った場合には、これを商品表示のなかに含ませて差支えない。
ただ、かような場合においても、その商品の形態が商品の技術的機能に由来する必然的な結果であるときは、これを除外する必要があろう。けだし、技術は万人共有の財産であり、ただそのうち新規独創的なものに特許権、実用新案権が附与され、特定の人に存続期間を限って独占を許すことがあるにすぎない。ところで、いまもし技術的機能に由来する商品の形態を商品表示と目して不正競争防止法の名の下に保護を与えるときは、この技術を特許権、実用新案権以上の権利として、すなわち一種の永久権として特定の人に独占を許す結果を招来し、不合理な結果が生ずる。したがって、商品の形態が専らその技術的機能に由来するときは、商品表示と目することはできないものとしなければならない。
本件についてこれをみるとき、原告製品の形態が専らその技術的機能に由来するものであることは前記認定のとおりであるから、これを不正競争防止法第一条第一号の商品表示とすることはできないものといわなければならない。
四 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく既にこの点において失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古関敏正 裁判官 吉井参也 小酒礼)